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キッズデザイン賞受賞 安全練習はさみについて ※画像追加

  • 2007-08-18 (土) 23:50
  • 文具

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安全練習はさみ。このはさみは、普通の紙は切れるけれども、手は切れにくい構造になっています。
手が切れにくい鋏ということで、ネット上でも、「安全なハサミなどかえって教育に悪い」など、様々な意見がなされているようなので、作った者として、多少の思いを語らせていただきたいと思います。

私は、良く切れるはさみを与えられ、手を怪我しながら大きくなりました。おかげで今では、たぶん普通の人より器用にはさみを使いこなすことが出来ていると思いますし、切れる道具の危険も素晴らしさも理解しているつもりです。ですから、私は、怪我をするという経験は、ある程度は必要なものだとは思います。ただしそれは、次の条件を満たしている場合に限定されると思っています。

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1 怪我は、自分の不注意や誤った行為によって起こり、自分が痛みを感じるものでなくてはなりません。注意深く、正しく使っているのに怪我をするようなものは、(一部の専門職が訓練を経て使う道具を除いて)道具に問題があります。また、他人の不注意や誤った行為で怪我を負っても、それは自身の行動に関する経験にはなりません。
2 必ず原因(自身の誤った行動)との因果関係がハッキリしている事が重要です。複雑な機器などによる怪我の経験はなかなか後に活かされません。そういう意味では、鋏や包丁のような単純な道具での怪我は、その後の人生に於いて重要な様々な教訓をたたき込んでくれます。きっと危険に対する感度が高くなりますし、自分の手を切った痛みを知る者は、どんなに怒っても人に刃物を向けることはそう簡単にはできません。
3 それともうひとつ、重要なのは、それが致命傷にならないこと、そして、後遺症を残さないことです。後に残るのは経験の記憶だけで充分です。身体的に取り返しのつかないような怪我は、通常の人生を歩む上での危険を学ぶ代償としては必要ないとおもいます。私の家では、かなり幼い頃から、父親の所持するほとんどの道具を許可無しに使う事が出来ました。しかし、電動ノコギリや、断裁機のような、一度のミスで指が飛ぶような道具は家には置かないということになっていました。おかげで私は何度も怪我はしましたが、いまのところ身体的な問題はありません。

今回キッズデザイン賞を受賞したはさみは、過保護な道具かもしれません。しかし、私が願うのは、このはさみで満足することではなく、このはさみを卒業することです。ニセモノの感触に失望することではなく、少しでも切る感触を楽しんでもらうことです。このハサミは、普通のハサミよりは安全性に配慮したつもりですが、手が切れないことを保証するものではありません。親子で一緒に練習してもらうためのはさみです。
私の会社では、以前は、プラスチック製の刃を持つ練習はさみを販売していました。プラスチック製の刃は、紙以外の物はほとんど切れず、たしかに安全なのですが、若干問題がありました。ハサミを紙に対して垂直から外側(右利きの場合はハサミを右に倒す)ではよく切れるのですが、内側に倒すと、とたんに切れなくなります。また、ハサミを普通に使える人は、無意識のうちに刃と刃を摺り合わせる方向に力をかけて使っていますが、使い始めでそのコツが分からない場合も、うまく切れないことがあります。そのため、プラスチック製の刃を持つハサミは、けがをすることはなくても、子供のストレスになる場合があることが分かっていました。お客様相談センターなどにもこのような問い合わせや報告はしばしば寄せられており、このプラスチック製の刃を持つハサミの販売を一旦中止しました。
しかし、販売を中止すると今度は、「子供が使っても安全なハサミはないのですか?」という問い合わせが寄せられるようになりました。
「安全なはさみ」を望む声は常にあり、市場があることも分かっていましたし、開発が必要なことは分かっていましたが、今度作るはさみは、安全性を確保しつつも、子供の練習にとって適切なはさみでなくてはなりません。
お子さんの動きを観察したり、知り合いのお母さんに話を聞いたりする中でわかってきたのは、使い始めの子供がハサミでけがをするのは、紙を持つ手の指が、紙の裏側に隠れて見えない状態で、紙を切ろうとしたときに、その紙と一緒に手を挟んでしまうというパターンと、硬いものなどを切ろうとして無理に握ったところ、切ろうとしたものと一緒に指を挟んでしまうというパターン。(もう少し大きくなると、鋏を錐のように使おうとしたり、缶の蓋を開けようとしたりなど、本来とは異なった使用方法でのけがが増えてきます。)
安全性を確保する方法として、刃とその可動領域をカバーで覆い、紙だけが入るよう、スリット状の隙間を空けるという方法も考えられますが、この方法だと、安全性はかなり高い水準で実現できるものの、カバー全体がかなり大きくなり、切ろうとしている部分が見づらく、紙を動かす際にも邪魔になるため、はさみを使いこなす練習には向かないということで不採用としました。
安全はさみ説明.jpg

代わりに工場長との度重なる試行錯誤の中から採用したのが、刃の側面に直接板を貼り付けるという方法です。刃の側面に刃よりも少しせり出したプラスチック製の板を貼り付けます。紙は若干たわむことでこのガードをよけて刃に触れ、通常のはさみにかなり近い感覚で切れますが、誤って指などを挟んでしまった場合、まずこのせり出したプラ板が指に当たります。仮にそのまま力を入れたとしても、刃はプラ板と一体のため、板が指にめり込むよりも常に浅く接触することになります。このため、通常のはさみ方であれば、力を入れても深い傷を負うことはないようになっています。
この板が多少邪魔にはなりますが、それ以外は全く普通のはさみと同じなので、他の方式に比べるとかなり普通のはさみに近い練習が出来ると思います。また、この板は、マイナスドライバーなどでこじ開けることで破壊して取り外すことが出来るため、練習に慣れてきたら、この板を取り外せば、普通のはさみになり、もっと自由になります。まずはこの板付きで練習してもらって、慣れたら外してさらに練習を続けてもらえればと思います。いわば自転車の補助輪のような役割だと思っていただければと思います。
このはさみは、構造上、刃を完全には覆っていませんから、触ろうと思えば刃を触ることも出来ますし、ゆびを滑らせれば、けがをすることも可能ではあります。私たちは怪我をしないことを保証は出来ません。しかし、無茶な使い方をしなければ大きな怪我はしないはずです。ですからまずはこの板が不要になるまではお母さん、お父さんと一緒に練習を始めて下さい。そして、紙を切る楽しさ、ものを作る楽しさを伝えて下さい。痛みを知るのはその後で十分だと思います。はさみを使いこなす楽しさが分かれば、すぐに普通のはさみを使うようになると思います。きっと怪我をするのは、そのころだと思います。でも、そのときには、どうして自分が怪我をしたのか、ちゃんと理解できると思います。
私は、お子様が触る初めての道具は安全な方が良いと思っていますが、安全なら何でもいいとは思っていません。今回私は、安心して本物の刃を使って正しく練習して頂き、はさみを使う楽しさを知ってもらうために、あえてこのバランスを選びました。この点に関して、ご賛同いただける方のみご使用いただければと思います。

コメント (Close):2

川崎英一郎 08-07-15 (火) 23:08

素晴らしいアイデア、お考えだと思います。 
TVでも拝見いたしました。 御社のそのはさみを欧州で販売したいのですが、弊社にそのチャンスはあるでしょうか? このアイデアはパテントや実用新案で保護されているでしょうか? もしYESの場合、国内だけでしょうか?
川崎

川崎英一郎 08-07-15 (火) 23:31

誠に申し訳ありません、このはさみのメーカーさんに対して書いたつもりでしたが、違うようですので、できれば削除お願いいたします。
インターネット音痴で申し訳ありません。

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文具王 高畑正幸
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